西欧とは異なるルーツを持つ国・ロシアの茶文化とその歴史。


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ロシアと言えば、お酒。ひとりあたりのアルコール消費量は世界一ではないものの、堂々6位を誇る国です(2015年のOECD発表データ)。「大人は誰でもウォッカを一気飲みしている」なんてイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。しかし、一方でロシアは紅茶分野においても特別な存在感を持っている国。他ヨーロッパ諸国とは異なる文化を花開かせているのです。今回は、ロシアの茶文化についてお届けします!

 ロシアンティー?サモワール?ロシアの茶文化。

ヨーロッパにおける茶文化と言えば誰もが英国風紅茶を思い浮かべることでしょう。しかし、ロシアも紅茶大国と呼べる立派な文化を持っていることをご存知でしょうか?広大なユーラシア大陸の東西に分かれているだけあって、ロシア茶文化は英国風とは一風変わったもの。しかも、茶の産出国ではないにも関わらず毎年大量の紅茶が消費され、英国に次いで紅茶を飲む国だと言われています(ジョージアやアゼルバイジャンなどの国は栽培が盛んなので、旧ソ連時代は自国生産ができました)。ここでは、ロシア茶文化の特徴を少しお話ししましょう。

【ロシアの紅茶と言えばロシアンティー】

ひと昔前の日本では、「ロシアンティーとはジャムを入れて飲む紅茶」と言われていました。しかし、それは正しい作法ではありません。ティーカップとは別にジャムを入れた容器を用意し、スプーンでジャムを口に運んで口内で紅茶と混ぜ合わせるのが本来のロシアンティー。ジャムにはウォッカやブランデーを加えることもあり、またジャムの代わりに砂糖やハチミツを舐めることもあるそうです。ちなみに、直接紅茶に入れない理由はお茶を冷まさないためなのだとか。寒い国だからこそ生まれた文化だと言えるでしょう。ただし、現在のロシアのカフェでは、ミルクやレモンを入れる日本同様の紅茶が一般的なのだそうです。

【ロシア式茶道の魂、サモワール】

ロシア茶文化の独自性を体現しているのは、何と言ってもサモワールの存在です。サモワールとは、西ヨーロッパ諸国の文化にはない金属製湯沸かし器のこと。茶会ではテーブルの中心にサモワールが置かれ、その周囲に小さめのティーポットが用意されています。ティーポットには茶葉をたくさんいれた濃い紅茶が作られていて、サモワールのお湯で好みの濃さに調整して各々がお茶を楽しむというわけです。ちなみに、サモワールはティーポットを載せることができるようになっていて、濃縮紅茶を蒸気で温めることもできます。また、厳しい作法がないこともロシア式茶道の特徴だと言えるでしょう。細かい手順はなく、長い時間をかけてゆっくりお茶を楽しむのがロシア式。楽しい団らんのシンボルが、サモワールなのです。

 紅茶とロシアの歴史。

ヨーロッパに茶がもたらされたのは大航海時代。まずはいち早く東インドに進出したポルトガルが現地で緑茶に出会い、次いで東インドに進出したオランダによってヨーロッパ各国へと茶が広まっていきました。しかし、ロシアへの茶の伝来はこれとは別ルート。海上ルートによって伝播した西ヨーロッパ諸国とは異なり、モンゴルやシベリアを経由した陸上ルートによってもたらされたとされています。ロシアの茶文化が他ヨーロッパ諸国と異なる独自性を持っているのもうなずけるでしょう。ここでは、ロシアと茶の歴史をいくつかご紹介します。

【ロシア帝国の版図拡大と茶の輸入】

諸説ありますが、ロシアが最初に茶と出会ったのはロマノフ朝初代皇帝ミハイル・ロマノフの時代。1638年にモンゴルの王、アルタン・ハンから茶葉200袋が贈られたと記録されています。フランスへの伝来が1635年頃、ドイツやイギリスへの伝来が1650年頃ですから、ほぼ同じ時期に伝わったと言えるでしょう。その後、既にシベリアを版図におさめていたロシアは南下政策をとり、中国(清)と幾度もの衝突(清露国境紛争)が繰り替えされます。そして両国の境界線を定めた条約や通商条約が結ばれ、陸路による交易が行われることになりました。馬やラクダによる運搬では、軽く日持ちがする茶葉は最適。輸入量はどんどん増え、喫茶文化が広がることになったのです。

【茶のシルクロード「万里の茶道」!】

ロシアと中国を結ぶ交易路は「万里の茶道」と呼ばれ、世界文化遺産に申請中なのだそうです。万里の茶道は、中国の湖北省、河南省、山西省、内モンゴル自治区を経由し、ロシアのサンクトペテルブルク、イルクーツク、キャフタ、ノボシビルスクなどの都市を結ぶ壮大な交易路。シベリア鉄道が開通するまでの約200年間にわたって、お茶はもちろん様々な文化・経済の交流を支える重要な役割を果たしました。ただし、陸路は海路に比べて輸送量に弱点があり、ロシアの庶民が紅茶を楽しめる価格になったのはシベリア鉄道開通後。その後は、軍艦の中でティータイムが設けられるほど身近な飲み物になりました。

【ロシアの茶は、「ティー」ではなく「チャイ」!】

ロシア語で茶は「チャイ(CHAI)」と言います。他ヨーロッパ諸国の呼び方「TEA(イギリス)」「THE(フランス)」「TE(イタリア)」「THEE(オランダ)」などと大きく異なるのがお分かりでしょう。これも、陸路・海路の違いによって生じた違い。海路で伝わった茶は福建省の厦門語「TAY」が語源となって派生していきました。一方、陸路での輸出の起点となったのは広東省。広東語の「CYA」がもとになっているのです。余談ですが、ポルトガル語の「CHA」は、ポルトガル人が最初に茶と出会った場所が広東省であったこと、当時交易のあった日本の「CYA」が伝えられたことが原因だと言われています。

(まとめ)

ヨーロッパ茶文化においてひときわ異彩を放つロシアのお話はいかがでしたか?お茶はアジアからヨーロッパに伝わったものですが、伝わり方が違えばお隣の国でも文化が変わるものです。余談ですが、フランスの有名紅茶ブランド「クスミティー」の創業者、クスミチョフはフランスに亡命したロシア人。元々はロマノフ朝皇帝のご用達茶商だったそうです。産地との関係以外に、ヨーロッパ内での交流も各国の茶文化に影響を与えていると言えるでしょう。色んな国の茶文化に触れ、その国流の飲み方を楽しんでみるのはいかがでしょうか。