茶園が脱炭素社会の切り札になる?お茶の栽培とカーボンニュートラルの深い関係


地球規模で進む温暖化。「日本の季節は二季化した」と言われるほど、酷暑が続く年も珍しくなくなってきました。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の実現は、現代に生きる人と企業にとって、無視できない問題です。化石燃料からの脱却を目指して自動車の電動化が進み、二酸化炭素排出量の企業間取引も盛んに行われています。そんな脱炭素社会の切り札として、茶の栽培に注目が集まっていることをご存じでしょうか?

なぜ茶園が脱炭素社会に役立つの?

温暖化防止の鍵を握るカーボンニュートラルの実現。多くの分野に広がる取り組みですが、お茶の生産も例外ではありません。実は茶園にはカーボンニュートラル実現に向けて、大きく貢献する未知の可能性が秘められています。

二酸化炭素を取り込み、閉じ込める茶の木の働き

茶の木は他の植物と同様に、日光を受けて大気中から二酸化炭素(CO2)を吸収して酸素を生み出す光合成を行う植物です。しかも、吸収した炭素を幹や枝、葉、根といった茶の木本体に固定させる働きがあります。一般的な茶の木の寿命は、30年~50年。つまり、これだけの長期間にわたってCO2を蓄積し続ける特徴があるということです。さらに、茶園は単位面積あたりの植栽密度が高く、限られたスペースで非常に高いCO2吸収率を誇ります。一部の調査結果では、茶園1ヘクタールで年間約92トンものCO2を吸収し蓄積するという報告があるほどです。

茶園の土にも炭素を貯め込む働きがある

おいしいお茶を作るために、茶園では育ち過ぎた枝を剪定したり、不要な葉を取り除いたりしています。こうした枝や葉を単純に廃棄すると、炭素として処分しなければなりません。そこで茶園では、剪定した枝や落ち葉を有機肥料に変えて土壌に供給する方法を採用しています。有機物へと変化した枝や葉は、土の中で微生物によって分解され、土壌の中に蓄積され続けます。

生物多様性にも寄与する茶園の経営

静岡県の一部地域で行われている「茶草場農法」をご存じでしょうか。これは、茶園周辺の山に繁殖している野草などを刈り取り、茶園の肥料として敷き詰める伝統農法です。2013年には、「世界農業遺産」として認定されました。その理由は、茶草場農法が生物多様性の保全に貢献するからです。生物多様性とは、地球上の生態系を豊かにして、人間を含むすべての生物の生存を支えるもの。生態系のバランスを保ち、気候変動の緩和や自然災害の軽減に貢献します。こうした面が世界的に評価され、未来に残すべき遺産として認められました。

テクノロジーで進化する茶園のカーボンニュートラルへの取り組み

伝統的な技術で環境保全に貢献する一方で、最先端のテクノロジーで、持続可能な農業を確立させる動きもあります。その一つが、バイオ炭の活用。バイオ炭とは、植物性廃棄物を酸素の少ない状態で蒸し焼きにして炭化させたものを指します。バイオ炭は微生物に分解されにくく、土壌中に長期間にわたって炭素を固定できるのが特徴。茶園では、寿命を迎えた茶の木をバイオ炭へと変えて、土壌に供給する実証実験などが盛んに行われており、CO2排出量削減と茶葉の品質向上の両立に大きな期待が寄せられています。

お茶の消費が、カーボンニュートラルの第一歩になる

このように注目を集めている茶園のカーボンニュートラルへの取り組み。CO2吸収能力に加えて、土壌に炭素を貯め込む働き、そして生物多様性に大きく貢献する伝統方法など、さまざまな角度からカーボンニュートラルに貢献しています。そんな茶園の経営を支えているのは、お茶を消費するみなさんに他なりません。お茶を飲むことが、地球温暖化対策への第一歩になります。ぜひおいしく毎日のお茶を楽しんでください。